2015年6月14日

 いつも正確に29日周期でやって来る生理が今月は来なかった。毎日毎日暇さえあれば「妊娠 初期症状」「中絶手術 費用」と調べていた。育ってきた家庭にお金が無くて切ない思いをしてきたから、己の子に同じ思いは絶対にさせたくなかった。そう考えると自分はまだ貯金なんて無いし、無理だなぁ。かと言って自分の都合で生まれつつあった人間を一人中絶して、はーこれで安心安心、明日からも仕事頑張りますね。ともいかない。わたしは。これはもう、この腹の人間と一緒に心中すべきか?と考えに考えあぐねて、もう悩みたくないから、「産休って一年目から取れるのかな…」とズレた方向に悩みをシフトさせていた。そもそもおまえは誰の子だよ。
 今日で一週間、生理が来なくなってから。流石にもうおれの人生は終わり。と腹をくくって首もくくって薬局で妊娠検査薬を買った。たったの670円ぽっちだった。レジの店員が男で、何となくニヤニヤしているように見えてむかついた。検査薬は生理用品を買ったときみたいに白い紙袋に入れられた。
 駅の薄汚れた狭いトイレに入って、検査薬の箱を開けた。体温計みたいな白い棒状の物体が入っていて、説明書を読むと、薄ピンク色のキャップを外すと半透明のフィルター部分があるから、そこに5秒以上おしっこをかけてくれよな、よろしくな。とのことだった。5秒も出るのか?と思いながらもよろしくと言われたら仕方ないから、説明書に従って完全にびびって弱々しくしか排出されないおしっこをかけた。尿はすごいと思いながら。そしてまたキャップをはめて、水平な場所に置いた。数分経って、小窓みたい部分からじんわり赤い縦線が浮き出てきたら陽性、赤ん坊が居るしるしだと説明書は努めて明るく教えてくれた。結論から言うと、陰性だった。よかった。咳き込むたびにおれはよかった。実によかった。愛を感じた。っていう歌詞すごいよな。「モータープールで俺は見つけた。夏服のなかのひとのいのち」っていう歌い出しも美しい。ずっと「もう多分俺は見つけた」だと思ってたけど。
 今はもうノリノリで、シャビーシックでバギーパンツを買ったし、ネスカフェの小洒落た小うざったい小清潔な小カフェで小ブレンドコーヒーを飲んでいるよ。これからパーマネントもかけるしね。つまり、時代遅れなイギリス車に轢かれて死にたいくらい、最高の日曜日の昼下がりってわけさ。